うつ病が理由で退職を検討される際は、失業保険などの公的制度について正確な情報を得ることが重要です。失業保険の受給には個別の審査があり、すべての方が受給できるわけではありませんが、制度を正しく理解することで適切な判断ができます。
この記事では、うつ病で退職した場合の失業保険の受給要件や申請手続き、診断書の必要性などについて、法律や制度に基づいた情報をお伝えします。まずは基本的な仕組みを理解し、ご自身の状況に当てはまるかどうかを確認していきましょう。
※本記事内の各種受給例はあくまでも一例であり、実際は個人の状況により異なる可能性がございます。正確な金額はハローワークでご確認ください。
失業保険 うつ病で受給できる可能性と基本ルール
うつ病で退職しても失業保険を受給できる可能性はある?
結論から申し上げますとうつ病で退職した場合、失業保険の受給には個別の審査があり、就労能力の有無や雇用保険加入期間等の要件を満たす必要があります。受給の可否はハローワークが個別に判断するため、すべての方が受給できるわけではありません。失業保険(正式には雇用保険の基本手当)は、働く意思と能力がある方が求職活動を行う際の生活支援として給付される制度です。
そのため、うつ病の診断を受けていても、医師が「就労可能」と判断しており、ハローワークでの求職活動に参加できる状態であれば、制度上は受給対象となり得ます。厚生労働省の基準では、「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態、環境など)があり、積極的に求職活動を行っている」ことが要件とされています。
ただし、完全に就労不能な状態で求職活動自体が困難な場合は、失業保険の要件である「働く意思と能力」を満たさないと判断される可能性があります。このような場合は、傷病手当金など別の制度の利用を検討することが現実的な選択肢となります。また、雇用保険に加入していた期間(被保険者期間)が一定以上あることも受給の前提条件となりますので、まずはご自身の加入期間を確認してみてください。
「働ける状態」とされる条件と求職活動の具体的なイメージ
失業保険を受給するための「働ける状態」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。厚生労働省の基準では、ハローワークに出向いて求職の申し込みができる状態であり、いつでも就職できる能力(健康状態、環境など)を有していることが求められます。
雇用保険法では「労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態」を失業と定義しており、具体的な労働時間の基準は設けられていません。うつ病の場合、医師が「一定時間の就労が可能」と診断していることや、実際にハローワークでの職業相談に参加できることが目安となります。
求職活動については、必ずしも毎日企業に応募する必要はありません。原則として4週間に1回の失業認定日にハローワークを訪問し、その間に2回以上の求職活動実績(ハローワークでの職業相談、求人への応募、職業訓練への参加など)を報告することが求められます。うつ病で体調に波がある方でも、無理のない範囲で活動計画を立てられるよう、ハローワークの窓口で相談することが可能です。
うつ病が重く働けない場合に検討できる他の公的制度
現時点で働くことが難しい状態にある場合は、失業保険以外にも利用できる公的制度があります。まず検討したいのが傷病手当金で、健康保険加入者が病気やケガで働けない場合に最長1年6か月間、標準報酬日額の3分の2相当額が支給されます。詳細はご加入の健康保険組合または協会けんぽにご確認ください。
さらに、症状が重く長期療養が必要な場合は、障害年金の対象となる可能性もあります。障害年金は一定の障害状態にあると認定された場合に支給される制度で、障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金は1級から3級までの等級があります。
また、業務が原因でうつ病を発症した場合は労災保険の適用を検討することも重要です。それぞれの制度には申請要件がありますので、ハローワーク、年金事務所、労働基準監督署などの公的機関や社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
失業保険がうつ病で300日受給となるケース
就職困難者として認定されるための主な条件と判断基準
失業保険の給付日数は、自己都合退職の場合は通常90日から150日程度ですが、会社都合退職(特定受給資格者)の場合は最大330日まで受給できる場合があります。就職困難者として認定された場合は、最大で300日から360日となる場合があります※。就職困難者とは、身体障害者、知的障害者、精神障害者など、法令により就職が特に困難と認められる方を指します。うつ病の場合、精神障害者保健福祉手帳を取得していることが主な基準となります。
ただし、就職困難者としての認定は、ハローワークが法令に基づき厳格に判断します。診断書や障害者手帳があっても自動的に認定されるわけではなく、実際の病状、就労能力、今後の見通しなどを踏まえて個別に審査が行われます。認定を希望する場合は、医師に症状の詳細や療養期間の見通しを記載してもらった診断書を準備し、ハローワークの窓口で相談してください。
うつ病で300日受給となる場合の日数の目安
就職困難者として認定された場合の具体的な給付日数は、離職時の年齢と雇用保険の被保険者期間によって決まります。
- 被保険者期間1年未満:150日(年齢問わず)
- 被保険者期間1年以上5年未満:45歳未満は300日、45歳以上65歳未満は360日
- 被保険者期間5年以上:45歳未満・45歳以上ともに360日
このように、被保険者期間が長いほど、より長期間の給付を受けられる可能性があります。一方、被保険者期間が1年未満の場合は、就職困難者として認定されても150日の給付となります。
給付日数が延長されることで、より長期間にわたって生活を支えながら、ゆっくりと体調を整えて求職活動に取り組むことができます。ただし、給付日数が長くなるからといって、受給総額が必ずしも大幅に増えるわけではありません。基本手当日額(1日あたりの受給額)は、離職前6か月間の賃金をもとに計算されるため、個人の給与水準によって受給額は異なります。
300日受給と再就職手当|対象となり得るケース
就職困難者として300日の給付を受けている場合でも、早期に再就職が決まれば再就職手当の対象となる可能性があります。再就職手当は、失業保険の受給期間中に安定した職業に就いた場合に、残りの給付日数に応じて一時金として支給される制度です。給付日数の3分の1以上を残して再就職した場合、残日数と基本手当日額に応じて計算された金額が支給されます。
具体的には、給付日数の3分の2以上を残して再就職した場合は基本手当日額の70%、3分の1以上を残した場合は60%が支給されます。たとえば、300日の給付日数のうち200日を残して再就職した場合、条件を満たせば残りの給付日数分の一定割合を一括で受け取ることができる仕組みです。ただし、再就職手当を受給するには、雇用保険に加入できる条件での就職であることなど、いくつかの要件を満たす必要がありますので、再就職が決まった際はハローワークで詳細を確認してください。
失業保険とうつ病の退職理由区分
うつ病で退職したら自己都合退職になることが多いケース
うつ病で退職する場合、多くは「自己都合退職」として扱われます。自己都合退職とは、労働者自身の意思で退職を申し出た場合を指し、一般的な転職や家庭の事情による退職もこの区分に含まれます。自己都合退職の場合、2025年4月の法改正により、給付制限期間が従来の2か月から1か月に短縮されました。そのため、ハローワークでの手続き後、7日間の待期期間を経て、さらに1か月の給付制限期間が経過した後に失業保険の給付が開始されることになります。
ただし、5年以内に3回以上の自己都合退職をしている場合は、3か月の給付制限が適用される点に注意が必要です。また、雇用保険の被保険者期間については、一般の離職者の場合は離職日以前の2年間で通算12か月以上の加入が必要となります。自己都合退職でも失業保険は受給できますが、給付制限期間がある分、受給開始までに時間がかかる点を理解しておきましょう。
特定理由離職者として扱われる可能性があるケースと給付制限の違い
うつ病の診断を受けて退職した場合、「特定理由離職者」として認定される可能性があります。特定理由離職者とは、病気やケガなど、やむを得ない正当な理由により自己都合で離職した方を指します。特定理由離職者として認定されると、給付制限期間が免除され、待期期間の7日間が経過すれば給付を受けられるようになります。
特定理由離職者の認定を受けるためには、医師の診断書が重要な役割を果たします。診断書には、うつ病であることと、就労が困難な状態であったことが記載されている必要があります。また、被保険者期間の要件も緩和されており、離職日以前の1年間で通算6か月以上の加入があれば受給資格が得られます。特定理由離職者として認定されるかどうかは、退職理由と診断書の内容をハローワークが総合的に判断しますので、退職前に医師とよく相談し、適切な診断書を準備しておくことが大切です。
パワハラや長時間労働が原因のうつ病と特定受給資格者の可能性
職場でのパワハラや長時間労働が原因でうつ病を発症した場合は、「特定受給資格者」に該当する可能性があります。特定受給資格者とは、倒産や解雇など、会社側の事情により離職を余儀なくされた方を指し、給付制限なしで失業保険を受給できるほか、給付日数も手厚くなる場合があります。パワハラや長時間労働が原因と認められるには、客観的な証拠や記録が必要となります。
たとえば、月45時間を超える時間外労働が3か月以上連続していた場合や、タイムカード、業務記録、上司からの暴言や嫌がらせを示すメール、メモ、録音などが証拠となり得ます。また、医師の診断書に「業務に起因するストレスによりうつ病を発症した」と記載されていることも重要です。特定受給資格者として認定されるためには、これらの証拠を整理し、離職票の退職理由欄に事実を記載してもらうか、ハローワークで異議申し立てを行う必要があります。
※退職理由は事実に基づいて正確に申告する必要があります。虚偽の申告は不正受給となり、受給額の返還や刑事罰の対象となる可能性があります。認定の可否はハローワークが個別に審査します。
失業保険とうつ病における診断書の役割と必要書類の準備
「うつ病で失業保険はもらえますか?」に関わる診断書の位置づけ
うつ病で失業保険を受給する際、診断書は必須ではありませんが、特定理由離職者や就職困難者として優遇措置を受けるためには重要な書類となります。診断書があることで、退職理由がうつ病という正当な理由であったことを客観的に証明でき、給付制限の免除や給付日数の延長につながる可能性があります。一方、診断書がない場合は、通常の自己都合退職として扱われ、2025年4月以降は1か月の給付制限が設けられることになります。
診断書には、病名(うつ病、適応障害など)、発症時期、症状の程度、就労困難であった期間、今後の療養見通しなどが記載されます。特に「業務に起因するストレスが原因」「週20時間以上の就労が可能」「半年以上の療養が必要」といった具体的な記載があると、ハローワークでの判断材料として有効です。診断書の発行には数千円から1万円程度の費用がかかる場合がありますが、給付制限の免除や給付日数の延長を考えると、取得しておく価値は十分にあります。
300日受給や特定理由離職者で診断書が必要となりやすい場面
就職困難者として300日受給を目指す場合、医師の診断書は特に重要な書類となります。ハローワークでは、精神障害者保健福祉手帳を取得しているか、または医師が「半年以上の長期療養が必要」と診断していることを認定の基準としています。そのため、診断書には療養期間の見通しや、就労がどの程度制限されるかについて、具体的に記載してもらうことが望ましいです。
また、特定理由離職者として認定を受ける際にも、診断書は退職時点でうつ病により就労が困難であったことを示す重要な証拠となります。診断書は退職前に取得しておくのが理想的ですが、退職後でも取得可能です。ただし、退職から時間が経過しすぎると、退職時点での状態を証明することが難しくなる場合もありますので、なるべく早めに主治医に相談し、必要な内容を記載してもらうようにしましょう。
失業保険とうつ病で申請前にそろえておきたい必要書類チェックリスト
失業保険の申請には、診断書以外にもいくつかの書類が必要です。以下の書類を事前に準備しておくことで、ハローワークでの手続きがスムーズに進みます。
- 会社から交付される「離職票-1」と「離職票-2」(必須)
- マイナンバーカードまたは個人番号通知カードと本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
- 証明写真(縦3cm×横2.5cm)2枚
- 医師の診断書(特定理由離職者・就職困難者として認定を希望する場合)
- 精神障害者保健福祉手帳のコピー(取得している場合)
- パワハラ・長時間労働の証拠(タイムカード、メール、メモなど)(該当する場合)
離職票は退職後10日から2週間程度で自宅に郵送されるのが一般的ですが、届かない場合は会社に連絡して発行を依頼してください。これらの書類が揃っていれば、ハローワークでの初回相談から受給資格の決定までがスムーズに進みます。
失業保険とうつ病では「すぐもらえない」ことがある理由と注意点
待期期間・給付制限期間の基本と2025年時点の自己都合退職の取り扱い
失業保険は申請したからといってすぐに給付が始まるわけではありません。まず、すべての受給者に共通する「待期期間」として、ハローワークで求職の申し込みをした日から7日間は、失業状態であることを確認するための期間となります。この7日間は、自己都合であっても会社都合であっても同じように設けられており、この期間中は給付を受けることができません。
その後、自己都合退職の場合は「給付制限期間」が設けられます。2025年4月の法改正により、給付制限期間は従来の2か月から1か月に短縮されました。そのため、自己都合退職の場合、待期期間7日間と給付制限期間1か月を合わせて、申請から約5週間後に初めて給付が開始されることになります。
ただし、5年以内に3回以上の自己都合退職をしている場合は、3か月の給付制限が適用される点に注意が必要です。一方、特定理由離職者や特定受給資格者として認定された場合は、給付制限が免除され、待期期間の7日間が経過すれば給付を受けられるようになります。
「すぐに働けない」場合に利用できる受給期間延長などの選択肢
現時点では体調が安定せず、すぐに求職活動を開始できない状態にある方もいらっしゃるでしょう。そのような場合は、失業保険の「受給期間延長」という制度を利用することができます。受給期間延長とは、病気やケガなどの理由で引き続き30日以上働くことができない場合に、本来の受給期間(離職日の翌日から1年間)を最長で4年間まで延長できる制度です。
受給期間延長の申請は、30日以上働けなくなった日の翌日以降、早期にハローワークで手続きを行うことが推奨されています。2020年の制度改正により申請期限が緩和され、受給期間終了日(最大4年)まで申請が可能になりました。ただし、申請が遅れると本来もらえるはずの給付日数を受け取れなくなる可能性があるため、できるだけ早めの手続きが重要です。
延長が認められると、体調が回復してから改めて失業保険の受給手続きを開始できるため、焦らずに療養に専念することができます。ただし、延長申請をしても給付日数自体が増えるわけではなく、あくまで受給開始のタイミングを先延ばしにできるという制度である点に注意してください。体調が回復したら、速やかにハローワークで受給開始の手続きを行いましょう。
「うつ病 失業保険 もらえない」と言われがちな代表的なケース
うつ病で退職しても、一定の条件を満たさない場合は失業保険を受給できない可能性があります。代表的なケースとしては、雇用保険の被保険者期間が不足している場合が挙げられます。一般の離職者は離職日以前の2年間で通算12か月以上、特定理由離職者や就職困難者は離職日以前の1年間で通算6か月以上の被保険者期間が必要です。短期間の勤務で退職した場合は、この要件を満たさないことがあります。
また、「働く意思と能力」がないと判断された場合も受給できません。たとえば、医師が完全に就労不能と診断しており、求職活動自体が不可能な状態である場合や、ハローワークでの職業相談や求人への応募といった求職活動の実績を提出できない場合などです。
さらに、退職理由が虚偽であったり、不正な手段で受給しようとした場合は、受給資格が取り消されるだけでなく、不正受給として返還請求や罰則の対象となる可能性もあります。正確な情報をもとに、適切な手続きを行うことが何より重要です。
失業保険とうつ病が会社に「ばれる」不安との向き合い方
うつ病と失業保険の手続きで会社やハローワークに共有される情報
うつ病で失業保険を申請する際、「会社にうつ病のことが知られてしまうのではないか」という不安を抱く方は少なくありません。結論から申し上げますと、ハローワークでの失業保険の手続きにおいて、病名や診断書の内容が直接会社に通知されることは原則としてありません。ハローワークと会社の間でやり取りされるのは、主に離職票に記載された退職理由や、受給資格の有無に関する情報に限られます。
ただし、離職票には退職理由を記載する欄があり、そこに「病気により退職」と記載される場合があります。退職時に会社に対してうつ病であることを伝えていた場合や、診断書を提出していた場合は、離職票にもその内容が反映される可能性があります。一方、退職時に病気のことを伝えずに「一身上の都合」として退職した場合は、離職票にも自己都合退職として記載されることが一般的です。情報の取り扱いについて不安がある場合は、退職前に会社の人事担当者に確認しておくと安心です。
うつ病を理由にした退職理由の伝え方と個人情報保護の考え方
退職理由をどこまで会社に伝えるかは、個人の判断に委ねられています。うつ病であることを会社に正直に伝えることで、特定理由離職者や特定受給資格者としての認定がスムーズになる場合もありますが、一方でプライバシーを守りたいという思いもあるでしょう。個人情報保護法では、医療情報は特に慎重に扱うべき「要配慮個人情報」に分類されており、本人の同意なく第三者に開示されることは原則として禁止されています。
したがって、退職時に病気のことを会社に伝えるかどうかは、ご自身の状況や今後の関係性を考慮して判断してください。もし会社に伝える場合は、人事担当者に対して「情報の取り扱いについて配慮してほしい」と明確に伝えることも一つの方法です。また、ハローワークでの手続きにおいては、窓口の職員は守秘義務を負っており、相談内容や診断書の情報が外部に漏れることはありません。安心して相談し、適切なサポートを受けてください。
将来の再就職への影響が気になるときに確認しておきたいポイント
うつ病で退職したことが、将来の再就職活動に悪影響を及ぼすのではないかと心配される方もいらっしゃるでしょう。結論から言えば、失業保険を受給したこと自体が、次の就職先の企業に直接知られることはありません。企業が採用時に参照できる情報は、履歴書や職務経歴書、面接での本人の説明、前職への照会(本人の同意がある場合のみ)などに限られます。ハローワークから企業に対して、受給履歴や退職理由を開示することはありません。
ただし、面接の際に退職理由を聞かれた場合、どのように説明するかは事前に準備しておくことが大切です。必ずしも病名を伝える必要はありませんが、「体調不良により一時的に休養が必要だったが、現在は回復し就労可能な状態にある」といった前向きな説明をすることで、誠実な印象を与えることができます。また、うつ病の治療を経て回復した経験は、自己管理能力や困難を乗り越える力を示すエピソードとして活かすこともできます。焦らず、ご自身のペースで再就職活動に取り組んでいきましょう。
失業保険とうつ病と傷病手当金・障害年金など他制度との関係性
傷病手当金と失業保険|同時に受給できない基本ルール
うつ病で退職した場合、傷病手当金と失業保険のどちらを選択すべきか迷う方もいらっしゃるでしょう。まず知っておくべき重要なポイントは、傷病手当金と失業保険は同時に受給することができないという点です。なぜなら、傷病手当金は「働けない状態」にある方を支援する制度であるのに対し、失業保険は「働く意思と能力がある」方を支援する制度だからです。つまり、制度の前提条件が相反しているため、併用はできません。
傷病手当金は、健康保険に加入している方が病気やケガで働けない場合に、給与の約3分の2相当額が最長で1年6か月間支給される制度です。在職中から受給を開始し、退職後も一定の条件のもとで継続受給できる可能性があります。一方、失業保険を受給するには「働ける状態」であることが前提となります。したがって、現時点で就労が困難な状態であれば傷病手当金を選択し、体調が回復して求職活動ができる状態になったら失業保険に切り替えるという流れが一般的です。
うつ病で働きづらい状態が長引く場合に検討される障害年金
うつ病の症状が重く、長期間にわたって働くことが困難な状態が続いている場合は、障害年金の受給を検討することもできます。障害年金は、病気やケガにより一定の障害状態にあると認定された場合に支給される公的年金制度で、1級から3級までの等級があります。うつ病などの精神疾患も対象となっており、日常生活や就労に著しい制限がある場合に認定される可能性があります。
障害年金を受給するためには、初診日から1年6か月が経過していること(障害認定日)、初診日の前日において一定の保険料納付要件を満たしていることなどの条件があります。また、医師の診断書に基づいて、日常生活能力や就労能力がどの程度制限されているかが審査されます。障害年金は失業保険や傷病手当金とは異なり、受給期間に上限がなく、障害状態が続く限り継続して受給できる点が特徴です。手続きは複雑なため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
労災保険や生活保護など、制度ごとの役割と利用優先順位の整理
うつ病で退職した場合に利用できる制度は、失業保険や傷病手当金、障害年金だけではありません。業務が原因でうつ病を発症した場合は、労災保険の対象となる可能性があります。労災保険は、業務に起因する病気やケガに対して、治療費や休業補償などが支給される制度です。パワハラや長時間労働が原因でうつ病を発症した場合は、労働基準監督署に相談し、労災認定の申請を検討してください。
また、これらの制度を利用してもなお生活が困難な場合は、最後のセーフティネットとして生活保護があります。生活保護は、収入や資産が一定の基準を下回る場合に、最低限度の生活を保障するための制度です。障害があることにより働くことが困難な場合は、障害者加算が適用される可能性もあります。
制度の優先順位としては、まず労災保険や雇用保険、健康保険といった社会保険制度を活用し、それでも生活が成り立たない場合に生活保護を検討するという流れが一般的です。それぞれの制度には申請窓口や要件が異なりますので、お住まいの自治体の福祉課や社会保険労務士に相談しながら、ご自身に合った支援を見つけてください。
失業保険とうつ病の申請手続きとハローワークでの相談の流れ
退職前後に確認しておきたいスケジュールと準備ステップ
失業保険をスムーズに受給するためには、退職前後のスケジュールを把握し、計画的に準備を進めることが大切です。まず退職前の段階では、可能であれば医師に診断書を作成してもらい、退職理由がうつ病という正当な理由であることを証明できるようにしておきましょう。また、会社に対しては、離職票を速やかに発行してもらえるよう依頼しておくことも重要です。
退職後は、会社から離職票が届くのを待ちます。通常は退職後10日から2週間程度で郵送されますが、届かない場合は会社に確認してください。離職票が手元に届いたら、なるべく早めにハローワークで求職の申し込みを行います。申し込みが遅れると、その分だけ受給開始が遅くなってしまいますので注意しましょう。また、この時点で必要書類(マイナンバーカード、本人確認書類、預金通帳、証明写真など)を揃えておくと手続きがスムーズです。
ハローワークでの求職申込みから初回説明会までの流れ
ハローワークでの手続きは、まず求職申込みから始まります。窓口で離職票と必要書類を提出し、求職の申し込みを行うと、受給資格の審査が行われます。この際、特定理由離職者や就職困難者としての認定を希望する場合は、診断書も一緒に提出し、窓口の職員に退職の経緯を説明してください。職員は、提出された書類と本人の説明を総合的に判断して、どの区分に該当するかを決定します。
受給資格が認められると、7日間の待期期間が始まります。この期間中は、失業状態であることを確認するための期間となりますので、アルバイトなどは控えてください。
待期期間が終了すると、雇用保険受給者初回説明会の日時が指定されます。説明会では、失業保険の受給に関する詳しい説明や、今後のスケジュール、求職活動の進め方などについて案内があります。
説明会で「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が交付されますので、大切に保管してください。
うつ病で求職活動がつらいときに相談できる窓口や工夫
うつ病の症状がある中での求職活動は、心身ともに負担が大きいものです。しかし、失業保険を受給し続けるためには、原則として4週間に1回の失業認定日に求職活動の実績を報告する必要があります。この点で不安を感じる方もいらっしゃるでしょうが、求職活動には柔軟な対応が認められています。たとえば、ハローワークの窓口での職業相談も求職活動実績としてカウントされますので、無理に企業に応募しなくても、まずは相談から始めることができます。
- ハローワークの「障害者窓口」や「専門援助部門」で個別サポートを受ける
- 地域の就労支援機関や精神保健福祉センターを活用する
- 障害者就業・生活支援センターで多角的なサポートを受ける
- 職業訓練への参加を検討する(訓練期間中は給付制限が解除される場合もある)
また、ハローワークには「障害者窓口」や「専門援助部門」といった、就職に困難を抱える方向けの専門相談窓口があります。うつ病などの精神疾患がある方に対しても、個別に丁寧なサポートを提供していますので、遠慮せずに相談してください。一人で抱え込まず、周囲の支援を上手に活用しながら、ご自身のペースで前に進んでいきましょう。
よくある質問|失業保険 うつ病で悩んでいる方からの相談

うつ病で退職したら失業保険はもらえますか?
うつ病で退職した場合でも、一定の条件を満たせば失業保険を受給できる可能性があります。重要なのは、「働く意思と能力がある」とハローワークで認められることです。具体的には、医師が週20時間以上の就労が可能と判断しており、実際にハローワークでの求職活動に参加できる状態であれば、受給対象となり得ます。
また、雇用保険の被保険者期間が一定以上あること(一般の離職者は2年間で12か月以上、特定理由離職者は1年間で6か月以上)も必要です。完全に就労不能な状態では失業保険の要件を満たさないため、その場合は傷病手当金など別の制度の利用を検討してください。
うつ病で退職したら自己都合退職になりますか?
うつ病で退職した場合、多くは自己都合退職として扱われますが、状況によっては特定理由離職者や特定受給資格者として認定される可能性があります。自己都合退職の場合、2025年4月以降は1か月の給付制限期間が設けられますが、医師の診断書があり、病気により退職したことが証明できれば、特定理由離職者として給付制限が免除される可能性があります。
さらに、パワハラや長時間労働が原因でうつ病を発症した場合は、特定受給資格者として認定され、より手厚い支援を受けられることもあります。認定を受けるためには、退職理由を証明する診断書や証拠を準備し、ハローワークで丁寧に説明することが大切です。
うつ病で退職する場合、診断書は必要ですか?
失業保険の申請自体には診断書は必須ではありませんが、特定理由離職者や就職困難者として優遇措置を受けたい場合は、医師の診断書があると有利です。診断書には、病名、発症時期、症状の程度、就労困難であった期間、今後の療養見通しなどが記載されます。
特に「業務に起因するストレス」「半年以上の療養が必要」といった記載があると、ハローワークでの判断材料として重要な役割を果たします。診断書がない場合は通常の自己都合退職として扱われ、1か月の給付制限が設けられますので、可能であれば退職前または退職直後に医師に相談し、診断書を取得しておくことをおすすめします。
うつ病で300日受給した場合でも再就職手当は受給できますか?
就職困難者として300日の給付を受けている場合でも、条件を満たせば再就職手当の対象となります。再就職手当は、失業保険の受給期間中に安定した職業に就いた場合に、残りの給付日数に応じて支給される制度です。給付日数の3分の1以上を残して再就職した場合に対象となり、3分の2以上を残していれば基本手当日額の70%、3分の1以上なら60%が支給されます。
ただし、雇用保険に加入できる条件での就職であることや、待期期間経過後の就職であることなど、いくつかの要件を満たす必要があります。再就職が決まった際は、ハローワークで詳しい条件を確認してください。
うつ病で求職活動が難しいときの対処法にはどんなものがありますか?
うつ病の症状がある中での求職活動は、確かに負担が大きいものです。そのような場合は、まずハローワークの窓口で職業相談を受けることから始めてみてください。窓口での相談も求職活動実績としてカウントされますので、無理に企業に応募する必要はありません。
また、ハローワークの障害者窓口や専門援助部門では、精神疾患のある方向けの個別サポートを提供していますので、ご自身の状況を正直に伝え、無理のない活動計画を一緒に考えてもらうことができます。さらに、職業訓練への参加も求職活動実績となりますし、訓練期間中は給付制限が解除される場合もあります。一人で抱え込まず、利用できる支援を積極的に活用しながら、ご自身のペースで進めていきましょう。
退職手続きに関する情報提供サービス「退職リトリート」

「退職リトリート」は、公的制度に関する一般的な情報提供を行うサービスです。制度の仕組みについて情報を整理してご案内することで、ご自身での手続き準備をサポートします。
公式LINEから制度に関する情報提供や、必要に応じてオンライン面談も実施しています。公的制度に関する疑問点について、情報提供を行う体制を整えています。退職前からのご相談にも対応しており、事前に確認すべき事項について情報をご案内しています。
当サービスはハローワークとは独立した民間事業者であり、ハローワークの委託・認定・推薦等を受けたものではありません。まずはお気軽にご相談いただき、あなたの状況に合った方法を一緒に考えていきませんか。退職後の生活を少しでも安心して過ごせるよう、退職リトリートが心を込めてサポートいたします。
※実際の手続きはご本人様がハローワークで行っていただく必要があります。受給の可否及び金額は、ハローワークでの審査により決定されます。




